第70回水産加工技術セミナー
2022年3月4日、第70回水産加工技術セミナーおよびマリンオープンイノベーション機構研修会が静岡県焼津市の静岡県水産・海洋技術研究所で開催されました。水産加工技術セミナーは30年を超える長い歴史のあるセミナーです。このセミナーでは食品産業などで活躍されている方々が演者として招待され、静岡県内の水産物流通、加工等に携わる皆様を対象に、最新技術の動向やマーケティングなど様々なトピックについてご講演されております。
今回のセミナーは二部構成で開催され、第一部は「静岡県の推進するバイオ研究」と題して行われました。この第一部においてMaOI機構で上席主幹研究員を務めます私、齋藤がオープンプラットフォームBISHOPの主要コンテンツの一つである海洋微生物ライブラリーについて紹介いたしました。講演では、まず
- (1)海洋微生物ライブラリーで維持管理されている1000株を超える乳酸菌および酵母の菌株は全て、駿河湾の海水や海藻、サクラエビなどの水産資源から分離されてきたものであり、静岡県の海由来の菌株であること
- (2)菌株は伊豆沿岸から浜名湖まで、海岸線に沿って様々な地域から採取されており、菌株ごとに産地があること。
についてご説明し、開発の際には”静岡の海の恵みのストーリー性”や”ご当地性”を新商品に付与できるメリットについてもご紹介しました。
また講演の中で、昨年web上に公開しましたBISHOP海洋微生物ライブラリーの使い方について動画を使って解説させていただいたほか、ライブラリー菌株を利用して新商品開発に取り組んでいただける企業様には、MaOI機構のコーディネータが相談窓口となって、必要であれば静岡県公設試験場の技術指導も受けることができる開発サポート体制もご用意されていることもご説明しました。
最後に、これからも多くの県内企業様に海洋微生物ライブラリーの菌株をご利用いただけますよう、MaOI機構としても海洋微生物ライブラリーの改良を継続していくことをお話して講演を終わらせていただきました。
次の講演では、静岡県工業技術研究所沼津工業技術支援センターの岩原健二バイオ科科長が静岡県有用微生物ライブラリーについてお話されました。この有用微生物ライブラリーはMaOI機構の海洋微生物ライブラリーがお手本としているシステムです。ご講演の中で、岩原科長は静岡酵母に代表される有用微生物ライブラリー菌株を利用したお酒や発酵食品の開発事例を紹介しながら、”微生物ライブラリー”というシステムの有用性について解説されました。
第一部最後は、静岡県水産・海洋技術研究所の小泉鏡子開発加工科科長が、「静岡の豊かな海の恵み、海洋由来微生物を使った新たな食品開発」という演題でご講演されました。 小泉科長は、県内企業様とMaOI機構海洋微生物ライブラリーの乳酸菌株を利用した様々な新製品の共同開発に取り組まれており、ご講演の中で、その進捗や製品化された商品についてご紹介されました。また小泉科長は、例えば高齢者を対象とした低塩発酵食品や、醤油などに含まれる微量なアルコールすら禁忌であるイスラム文化圏の方々が食べられるラーメンスープの開発など、時代に即した乳酸菌の利用についても解説されました。乳酸発酵の新たな可能性を感じられる興味深いご講演でした。
第二部では 販売促進研究所(株)の代表取締役である杉山浩之氏が「アフターコロナのブランド戦略」と題してご講演されました。杉山氏は静岡県グルメとして有名な”清水もつカレー”や”ごはんにかけるバリ勝男クン”の開発にも携わったマーケッター。講演では、インターネットが普及した現在、需要と供給の関係性は細分化されており、細かいニーズを拾い上げる戦略が重要であるということを解説されました。市場で大きなシェアを得ることを目指すよりも、お客様の要望をしっかり解析し、少数であってもカスタマーと長期にわたってお付き合いできる仕組みが今日のビジネスでは有効で、そのためには商品の個性、価値をしっかりと見極めてブランディングすることが不可欠であることがよくわかりました。これから商品開発に挑まれる方には大変参考になったのではないかと思います。
最後に、今回は静岡県水産・海洋技術研究所のご好意で第70回水産加工技術セミナーをマリンオープンイノベーション機構研修会と合同開催という形式で開催させていただきました。MaOI機構の活動をご紹介する機会を設けていただきましたこと、心より御礼申し上げます。
文 齋藤禎一 MaOI機構上席主幹研究員