2022.08.16
レポート
水産研究最前線 水産国日本を復活させるにはどうしたら良いか~水研機構の研究開発の現状を中心に~(令和4年度第1回MaOIセミナー前半)
2022年6月28日、静岡市のホテルグランヒルズ静岡にて、「令和4年度第1回MaOIセミナー」を開催しました。「水産業におけるイノベーション ~持続可能な水産業に資する研究開発の現状と先進的な取組事例~」と題した今回のセミナーは、現地とオンライン配信のハイブリッド形式で行い、合わせて100人近くの参加がありました。
セミナー前半は国立研究開発法人水産研究・教育機構理事長の中山一郎先生にご登壇いただき、「水産研究最前線 水産国日本を復活させるにはどうしたら良いか ~水研機構の研究開発の現状を中心に~」と題し基調講演を行いました。
【水産国日本、復活のカギは「持続可能な養殖産業」】
講演はこんなクイズからスタートしました。
Q.日本で1番消費量の多い魚はなんでしょう?
A.マグロ
B.エビ
C.サケ
D.イカ
正解はサケ。次いでマグロ、ブリ、エビと続きます。
先生曰く、これまで年間消費量の1位はイカやマグロが定番でしたが、2009年頃からサケが台頭するようになりました。
これはノルウェー産の養殖アトランティックサーモンが大量に輸入されるようになったことが大きな要因だと言います。日本の天然のサケはアニサキスが寄生しているリスクがあるため、生食の習慣はありませんでしたが、輸入サーモンにより生食文化が根付いたことも、消費量増加に繋がったそうです。
しかし、先生の研究結果では、日本人の魚介類消費量は減少傾向にあることが一目瞭然。1993年には1人あたり年間8,000グラムの魚介類を消費していましたが、2021年は約半分にまで減少しています。
2011年に肉類の消費量が魚介類を上回ったという統計も出ており、日本人が魚食から肉食の民に変化したことが分かります。
一方、世界の水産物消費量は60年間で約7倍と急速に伸びていて、これには世界的な日本食ブームや健康志向が影響していると先生はお話されました。
国内の魚食文化をいかに復活させるか。この課題を解決するカギの一つは「養殖産業の発展」にあると、中山先生は訴えます。
変化の目まぐるしい気候変動の影響や乱獲規制の観点から、天然の魚を対象とした漁業を今後の漁獲量増加に繋げることは現実的ではありません。
一方で注目されているのは、30年ほど前から世界中で伸びている養殖産業。ノルウェーのサーモンのように、これまで全くなかった産業が生まれる可能性も大いに秘めていると、先生も期待されています。
日本の魚介類自給率は、2020年の統計で57%。この数値を逆手に取れば、輸入に頼っている43%の需要を、国内の養殖産業で賄う余地があると言えるでしょう、と中山先生。畜肉と同様、魚介類も人間の食べる分は人間で作る段階に来ていると言います。
政府も日本の水産業の現状を重く捉え、岸田首相は2022年6月の衆院予算委員会で「水産大国日本の復活に向けて取り組みたい」と述べています。
また、農林水産省は「みどりの食料システム戦略」を打ち出し、2050年までにニホンウナギ、クロマグロ等の養殖において人工種苗比率100%の実現を目指すなど、漁業においても具体的な目標を掲げています。
水産庁も70年ぶりに水産計画を改定し、入念なマーケット調査に基づいた養殖への段階的移行を推奨しています。魚の種類により、2030年までに達成すべき目標数値が設定されています。
先生のお話によると、いずれも最大の目的は、漁業を持続的な産業にすること。
「環境保全もさることながら、漁業者の減少も日本にとって大きな課題です。漁業者の高齢化は深刻であり、持続的に働く場所の提供が求められています。遠洋漁業は高齢の漁業者には危険が伴うため、養殖漁業はこれからの時代に適した産業と言えます。安全で長く働くことのできる職場環境は、若者にとっても魅力的なポイントとなるでしょう」
さらに、水産研究・教育機構では「水産業の持続可能な発展のための研究開発」として、サケ・マス資源の維持・管理のための研究開発に力を入れているそうです。
「魚の耳石に生年月日や産地判別が可能なバーコードを人為的につけることで、日本生まれのサケ・マスが、どの海域で獲れたかが一目瞭然になります。この取り組みは、サケ・マスの回帰率回復と資源の維持・管理に繋がっています」
日本の持つ海域は素晴らしく、国土は狭いにも関わらず世界6位の海域を有しています。この広大な海域を活用した養殖産業を発展させることができれば、水産大国日本の復活も可能だろうと、中山先生は今後の展望を語りました。