2022.08.16

レポート

バナメイエビの陸上養殖技術(令和4年度第1回MaOIセミナー後半)

「令和4年度第1回MaOIセミナー」の後半では、IMTエンジニアリング(株)技術研究所所長の野原節雄氏をお迎えし、水産業におけるイノベーションの先進的な取組事例をご紹介いただきました。

【陸上養殖の先進事例】

野原氏から、基調講演でも注目されていた養殖産業の具体的な事例として、「バナメイエビの陸上養殖技術」をご紹介いただきました。

なぜ、今「陸上養殖」が注目されているのか。
それは、野原氏の示した世界の養殖生産量データに顕著に表れていました。「2020年、養殖生産量の割合は57%にまで及び、もはや養殖なしに人間の食料を確保することは不可能となっています」と野原氏。
また、動物性たんぱく質に占める魚介類の貢献度も上がっており、特に欧米人は骨がなく食べやすいエビを好む傾向にあるそうです。
かつてエビの消費国1位は日本でしたが、今はアメリカが首位。次が中国、次いでヨーロッパと、大きな市場は海外に移っています。そのため、日本で輸入できるエビの品質や量が下がってしまいました。その現状を目の当たりにした野原氏は、国内でエビをまかなうための技術開発を進めようと決心されました。
加えて、「季節に左右されない」「付加価値が高い」「95%が輸入のため既存漁業との競合がない」「食糧自給率向上に貢献できる」など、エビ養殖を選んだポイントは多数あったそうです。

そこで野原氏が養殖の対象として選んだのが、東南アジアや中南米では重要な輸出産業となっているバナメイエビ。年間400万トン以上が消費されますが、近年病気の発生や異常気象により、生産が不安定になりつつあります。
しかし、クルマエビと違って育成水槽内に砂を必要とせず、水流があれば養殖可能という利点のほか、淡水に近い汽水状態で飼育可能なため、海辺近くなどに限定されず育成場所を選ばないという点も、陸上養殖に適しているといいます。さらに16~14週間で出荷可能という成長の早さも特徴で、年3回以上生産が可能な品種です。

その他、バナメイエビの生態を徹底的に解明し、バナメイエビに合った水の循環システムや水質維持装置等を開発した野原氏。2007年4月には、新潟県妙高市に実証プラントを開設されました。冷凍品の加工場も併設し、プラントで養殖されたエビは「妙高ゆきエビ」という名前で、妙高市の新たなブランド品となりました。学校給食として採用されたほか、マスメディアにも多数紹介されるなど、地域の活性化に貢献しています。
こうした長年の研究結果はマニュアルとしてまとめられ、エビに詳しくない人でも事業を始められるフォーマットを作成しました。

一連の取り組みは高く評価され、「第7回産学官連携推進功労者・農林水産大臣賞」を受賞されたほか、5つの特許も取得されています。

我が国の陸上養殖の可能性について野原氏は、「日本は浄水処理が優れているため、この技術を陸上養殖に取り入れることができれば、飛躍的な躍進が期待できる一方、陸上養殖に使用する機器のコストは今後の課題だ」と言います。
「安価で種類も豊富なヨーロッパ・アメリカと比べ、日本は機器が非常に高価であり、量産化・規格化によるコストダウンが普及のカギとなる」と、今後の期待を述べられました。

最後に野原氏は、今後のバナメイエビのビジネス展開として、静岡県磐田市で2022年7月生産開始予定の新施設について紹介されました。
妙高の3.5倍の生産量があり、磐田の新たな名物になることを期待しています。パート従業員も約40名雇用し、地域への雇用貢献に繋げる狙いです。「地元の企業と協力して加工品開発も進めたい」と、陸上養殖の持つポテンシャルの高さを感じさせる締めくくりとなりました。

以上