2022/07/28

第22回バイオテクノロジー学会 シンポジウム
〜DX革命とマリンバイオテクノロジーの将来〜 


平先生は国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)で日本を取り巻く海洋地質を研究されてきた地質学の第一人者で、南海トラフ地震の中心的研究者としても知られております。JAMSTECの理事長を務められた後、東海大学海洋研究所に移られ、今は駿河湾を対象に研究活動を続けられております。平先生のお考えでは、駿河湾は海洋・地球・生命・社会の 相互作用を学ぶ最高のフィールドであり、特に陸地・人間社会と深海のユニークな関係が研究できる対象であるということ。現在東海大学では駿河湾を中心に据えたリベラルアーツの体系化を目指しており、これを駿河湾学と命名されたとのことでした。

平先生が着目されているのが、富士川の洪水時に発生する混濁流と、混濁流によって海底に堆積した混濁流堆積物(ダービダイト)。富士川起源のダービダイトについては、四国沖の南海トラフにまで運ばれ、長い年月をかけて堆積されてきたことが平先生ご自身の研究で明らかとなっております。しかし2018年10月、富士川で洪水が発生。その際に、駿河湾富士川沖水深1500m付近に設置した地震計が流されたことで、富士川洪水混濁流が地質学的な長い時間ではなく、リアルタイムで駿河湾海底環境に影響を及ぼしていることが確認されました。

先生は、洪水混濁流は陸上植物片、土壌、人工物、淡水、熱を深海に運搬しており、近年の台風・豪雨の増加でその頻度は大きくなっている可能性があるとお話になりました。現在、東海大学のグループでは、駿河湾海底のダービダイトの調査を行っており、陸上植物由来の有機物が深海に運び込まれていることがわかってきたということ。平先生はこの有機物層を新たに深海腐植層と名づけ、今後、様々な海底センサーの導入やJAMSTECの船地球号を動員しての海底掘削も視野に入れた調査を考慮中とのことでした。

先生のご講演を拝聴し、洪水混濁流による陸上と駿河湾深部との物質循環のリンクやそこに展開される生命圏を解明することで、駿河湾深部を素材としたマリンバイオテクノロジーが大いに発展するものと期待されます。

文 齋藤禎一 MaOI機構上席主幹研究員